7度差と15分から考える子どもの熱中症対策とは

大人の胸元では31.1℃でも、子どもの胸元では38.2℃。ある条件下の測定では約7.1℃差が生じました。外気温35℃の実車試験では、エアコン停止後15分で暑さ指数が危険域に達した例もあります。子どもの熱中症対策を、水分摂取・観察・冷却の迷いからほどいていきましょう。
堀向健太 2026.08.03
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2026年7月20~26日の1週間に、熱中症で救急搬送された人は全国で18,591人でした。
これは全年齢を合わせた速報値で、うち少年は1,343人、乳幼児は80人、新生児は1人です[1]。また、2025年5~9月の確定値は100,510人で、2008年の集計開始以降最多でした[2]。

数字の大きさに驚いた研修医のA先生は、「同じ道を歩く子どもと大人は、本当に同じ暑さなのだろうか」と、考え始めました。

本記事を最後まで読めば、

  • 「約7度差」は何を意味する?

  • 水分摂取は水・経口補水液をどう選ぶ?

  • 意識がおかしいとき何をする?

これらの疑問にお答えできるよう執筆しました。

※この記事は一般的な医療・安全情報です。個別の診断や治療に代わるものではありません。意識がおかしい、けいれんがある、自力で飲めないなど重い症状があれば、体温の数字を待たず受診してください。

子どもと大人の「約7.1℃差」とは。

A先生「先生、ちょっと聞いてくださいよ…。2026年7月20日からの1週間だけで、熱中症の救急搬送が1万8千人を超えたんですよね。子どもの搬送も出ています。外来で『予報が31℃なら、短時間の外遊びは大丈夫ですか』と聞かれたのですが…」

ほむほむ先生「それは迷うよね。まず大事なのは、18,591人というのは全年齢を合わせた1週間の速報だ。暑さが今まさに大きな健康問題になっていることは伝わる数字だよね[1]。」

A先生「2025年の確定値も10万人を超えています。しかも建物内での発生が最多だったんですね。屋外競技だけの話ではない、と説明する必要がありそうです。」

ほむほむ先生「うん。2025年の100,510人は救急搬送された人の集計で、熱中症になった人すべての数ではないしね。それでも、少年8,447人、乳幼児531人が搬送されている。家、道、学校、車内など、日常のどこでも起こりうる問題として考えるのが現実的だ[2]。」

A先生「そこで気になったのが、記事のタイトルにもある『約7度差』です。大人の高さより子どもの高さが7℃高いなら、予報気温に7℃を足せばよいのでしょうか?」

ほむほむ先生「良い質問だね。結論から言うと、足し算にはできないんだ。もとになったのは、2023年5月17日の快晴時、都内のビル屋上で行われた企業と気象会社の共同検証だよ。14時の東京都心の気温は、気象庁発表で31.4℃。日射の影響も受ける黒球式の暑さ指数計では、大人の胸を想定した高さ150cmで31.1℃、子どもの胸を想定した80cmで38.2℃。差は7.1℃だね[3]。」

A先生「ええー!? 同じ場所、同じ時間なのに、38.2℃ですか。かなり違いますね…。」

ほむほむ先生「驚くよね。ただ、これは一地点、一日、一時間帯の条件つきの測定例なんだ。地面の素材、日射、雲、風、建物の影、測定機器が変われば差も変わる。『子どもはいつでも大人プラス7℃』と一般化するのは不正確とはいえる。しかも、天気予報で見る気温とは測り方そのものが違う。気象庁は、日当たりと風通しのよい場所で、芝生の上およそ1.5mの高さに置いた通風筒、直射日光を遮り、外の空気だけを取り込む筒の中で、条件をそろえて気温を測っているんだ[4]。」

A先生「つまり、予報の31℃は、日なたのアスファルトの上や、子どもの顔の高さを直接測った値ではないのですね?」

ほむほむ先生「そうなんだ。予報気温が間違っているのではなく、役割が違う。標準化された気温は、地域や時間を比べるための大切な数字だよ。ただ、目の前の路面から受ける熱、湿度、風の弱さまで、一つの数字で表すものではない。だから外出前には予報を見て、現場では日差し、路面、風通し、子どもの様子を重ねて見る。数字を捨てるのではなく、数字の届かない範囲を知るんだ。本当のテーマは一つの温度だけに判断を預けないことで、これは後で、脇の体温をどう読むかにもつながるよ。」

子どもの体温調節は「汗をかけない」だけでは説明できません

A先生「子どもが暑さに弱い理由は、『汗腺が未発達で汗をかきにくいから』と説明されることが多いです。これで合っていますか?」

ほむほむ先生「大筋では、子どもの体温調節は発達の途中にあり、周囲の大人が環境を調整する必要がある、と伝えるのは大切だ。環境省も、体重当たりの体表面積が大きいこと、地表面に近く照り返しを受けやすいこと、顔色や機嫌を大人が観察することを挙げている[5]。ただし、『子どもは汗をかけないから、必ず大人より深部体温、すなわち身体の内側の温度が上がる』と決めつけるのは、現在の研究には合わないんだ。」

A先生「えっ!? 汗が少ないのに、深部体温の上がり方は必ずしも大きくないのですか?」

ほむほむ先生「そうなんだ。まず、身体と環境の熱のやり取りを四つに分けてみようか。皮膚が触れている物へ熱が移る伝導、空気の流れで熱が運ばれる対流、日射や熱い路面から赤外線として受ける放射、そして汗が蒸発するときに熱を奪う蒸発だよ[5]。風があると楽なのは対流と蒸発、熱い路面の近くでつらいのは放射だね。だから体重当たりの体表面積が大きいことは、周囲が皮膚より涼しければ広い表面から熱を逃がす助けになるし、周囲が熱くて強い放射を受ける場面では、逆に熱を受け取りやすくなる。体表面積は、いつでも弱点というより、環境によって有利にも不利にもなるんだ。」

A先生「地面に近い高さが厳しいという方向性は、さきほどの7.1℃測定以外でも確認されているのでしょうか?」

ほむほむ先生「別の方向から確かめた研究はあるよ。米国テキサス州の10か所の歩道を晴れた6日間に調べた研究では、赤外線カメラの画像から求めた熱環境の指標が、午後には子ども想定の高さで成人想定の高さより平均1.33℃高かった。街路樹などの植栽で差が和らぐことも示されている[6]。」

A先生「日陰ならどこでも同じ、ではないのですね。コンクリートの壁や路面が熱く、風が止まっていれば、屋根の影でも負担が残りそうです。」

ほむほむ先生「良いところに気づいたね。木陰など、周囲の表面温度が低く風も通る日陰では、負担が小さくなることがある。一方、熱い壁や舗装に囲まれた影では放射熱が残ることがあるんだ。日陰へ移すだけでなく、『そこで身体が本当に冷えていくか』まで見る必要があるよ。」

A先生「では、汗についてはどう説明すればよいでしょう。『汗をかいているから大丈夫』も、『汗が少ないから必ず危険』も単純すぎますよね?」

ほむほむ先生「まさにそうだ。複数の研究をまとめて分析する系統的レビューが2026年に出ていて、22研究、計507人が対象だった。そして、多くの研究で子どもの発汗量は成人より少なかった。一方、暑さにさらされたときの深部体温の上がり幅が子どもで大きい、と示した研究はなかった。皮膚の血流が多い研究もあり、子どもは熱を逃がす手段の配分が成人と違う、と読むのが妥当といえるんだ[7]。」

A先生「なるほど! 汗が少ないことと、体温調節全体が必ず劣ることは同じではないんですね。」

ほむほむ先生「そうなんだ。さらに2025年の比較試験では、健康で活動的な10~16歳68人と成人24人が、30℃または40℃に保った実験室で45分運動した。運動の負荷を体力・体重・体表面積に合わせてそろえて比べると、ほとんどの条件で深部体温の上がり方も脱水の程度も年齢差はなかったんだ[8]。」

A先生「じゃあ、『子どもは生理的に必ず大人より危険』と言い切れないってことですか?」

ほむほむ先生「うん。あの研究は健康な学童以上の短時間運動を見たもので、乳幼児、病気の子、車内、長時間の外遊びを直接調べたものではないんだ。実生活では、子どもは暑さを言葉で伝えにくいし、遊びを自分から中断しにくい。飲み物や涼しい場所も、自力では確保しにくいよね。だから汗の量だけを見るのではなく、どこにどれだけいたのか、行動、見守り、飲水の機会まで含めて考える。びっしょり汗をかいてぐったりしている子も、汗が目立たないのに反応が悪い子も、どちらも危険性はあるんだよ。」

***

ここまでが、「なぜ、子どもの周りの暑さは大人から見えにくいのか」という話でした。ここから先は、家庭や園、学校で、その日から使える話に移ります。

その前に、一つだけ先にお伝えします。ここは登録の有無にかかわらず、持ち帰ってください。暑い場所にいたあとに、呼びかけへの反応がおかしい、眠り込んで起こしにくい、けいれんがある、うまく飲み込めない、何度も吐く、自力で飲めない。このいずれかがあれば、体温計の数字を待たずに119番です。口から無理に飲ませず、涼しい場所へ寝かせて衣服を緩め、顔や気道を避けて広い皮膚を水でぬらし、風を送りながら救急隊を待ちます。

続きでお伝えするのは、水を怖がらずに選ぶ考え方と、経口補水液が向く場面と向かない場面。車内とベビーカーで起こる「15分」の変化。脇の体温が高くなくても熱中症を否定できない理由。そして、暑さに慣れたあとも対策をやめられない理由です。

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続きは、13815文字あります。
  • 水分補給は、水を怖がらず「量・場面・飲める状態」で選びます
  • 「15分」のリスクとは。車内とベビーカーカバーの共通点
  • 脇の体温が高くなくても、熱中症は除外できません
  • 意識がおかしいときは、数値を待たず119番と安全な全身冷却を
  • WBGTと暑熱順化とは。「慣れたから大丈夫」にしない
  • まとめ
  • 参考文献

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