スマホのダークモード、ブルーライトカットメガネ。本当に目にやさしい?
ダークモードとは、画面の背景を暗くして、文字やアイコンを明るい色で表示する設定のことです[1]。
個人的には、スマホもパソコンもダークモードにしていますが、そのほうが目が疲れにくいのではないかと考えていたからです。でも、実際にはどうなのでしょうか?
ダークモードは、暗い場所でのまぶしさを減らし、目の負担を軽くする目的で広まりました[1]。スマホやパソコンのほとんどで、このダークモードと通常のライトモード(明るい背景に黒文字)を自由に切り替えられます。
実は、初期のコンピューター画面は黒い背景に緑色などの文字が表示されるのが一般的でした[1]。その後、白い背景に黒文字のほうが読みやすいという考えからライトモードが主流になりましたが、近年、ユーザーの好みや夜間の使いやすさから再び注目を集めているわけです。
ちなみに、ダークモードは「負極性表示」と呼ばれ、ライトモード(黒文字・白背景)は「正極性表示」ともいいます[2]。これは画面の明暗の関係を表す言葉です。
デジタル画面と目の疲れの関係

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スマホやパソコンなどを長時間見つめると、多くの人が「眼精疲労」という症状を感じます。これは目の乾きやかすみ、肩こり、頭痛などを引き起こすもので、「コンピュータービジョン症候群(CVS)」とも呼ばれます[3]。コンピューターやスマホの画面を長く見ることで起こる目や体の不調のことです。
実際、デジタル端末を長時間使う人の約3分の2が何らかの疲れを感じているという報告もあります[4]。
子どもにとってもこれは大きな問題です。 アメリカ眼鏡協会(AOA)の調査では、10~17歳の子の80%が、ゲームや動画を長く見たあとに「目がぼやけ」「目が焼ける感じがあり」「疲れ目を感じる」と答えています[4]。
休憩を取らずに近くを凝視し続けることが原因で、まばたきの回数が減ると角膜(目の表面の透明な部分)が乾燥してヒリヒリしたり、遠くを見るときにピントが合いにくくなったりするのです[3]。
さらに、子どもの近視の増加も大きな問題です。
近視には遺伝だけでなく、長時間の近距離作業と屋外活動の少なさが関わることがわかってきました[5]。2050年には、世界の半数近くが近視になるという予測もあるほどです[5]。
なお、ブルーライト(波長385~496nmの青色光)が目に悪いかどうかは、医学的に結論が出ていないようです。ブルーライトとは、画面から出る青い光のことで、目に悪いのではと心配されていたのですが、米国眼科学会(AAO)も日本眼科学会も、「日常的にディスプレイから出るブルーライトが目に有害という証拠はない」としています[6][7]。
オーストラリアのメルボルン大学で、ブルーライトカットレンズが本当にコンピューター使用による目の疲れを軽減するかが調査されました。120人のコンピューター使用者を4つのグループに分け、ブルーライトカットレンズか通常の透明レンズのどちらかを装着してもらい、レンズについて肯定的または否定的な説明を受けるグループに分けました。そして参加者は2時間のコンピューター作業を行い、目の疲れの症状と客観的な測定値を作業前後で比較しました。 結果として、ブルーライトカットレンズは通常レンズと比較して目の疲れを軽減する効果がなく、レンズに対する医師の説明の仕方も結果に影響しませんでした [8]。
ただし、夜間に強い光を浴びると体内時計が乱れて睡眠が浅くなる可能性があるため、就寝前の画面使用はほどほどにすることがすすめられます[9]。
ダークモードの目への影響

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ダークモード(負極性)とライトモード(正極性)の視認性や疲れやすさについては、近年いろいろな実験や調査が行われています。
多くの研究が示しているのは「ライトモード(白背景・黒文字)のほうが読みやすい」という点です。たとえばライトモードとダークモードを比べた実験では、小さな文字を読むときのミスの数や読むスピードに差があり、ライトモードの方が優れていたという報告が目立ちます[1][2]。
これは、背景が明るいと瞳孔がやや縮小し、文字の輪郭がはっきり見えるためと考えられています[1]。
また、明るい部屋や昼間の屋外など、周囲が明るい状況ではダークモードの画面が一層暗く見えてしまい、内容を認識しにくくなるケースが多いとされています[10]。そのため、日中の文書作成や長文読書では、ライトモードの方が効率的ではないかと考えられています。
では、「ダークモードにすると目が疲れにくい」のでしょうか。
これについては、結論が一致していません。ある実験では、ライトモードとダークモードで文章を読んだあとに、主観的な疲れや痛み、視覚機能の変化を比較しました。しかし、短時間の使用では両者に大きな差は認められなかったと報告されています[10]。一方、夜間や暗い部屋など周囲が暗い状況では、ダークモードがまぶしさを減らし、眩しく感じにくくなるという報告もあります[1]。
ダークモードと近視の関係は、近年特に注目されています。
ドイツのチュービンゲン大学の研究グループは、白背景・黒文字の読書と、黒背景・白文字の読書とで、脈絡膜(目の奥にある血管がたくさんある膜)の厚みがどう変化するかを調べました[11]。
その結果、白背景・黒文字では脈絡膜が薄くなる傾向があったのに対し、黒背景・白文字では脈絡膜が少し厚くなるという予備的な結果が得られたのです。脈絡膜が薄くなる現象は近視の進行と関連があると考えられており、黒背景・白文字での読書(ダークモード的な配色)が近視を抑える可能性を示唆しているといえます。
ただし、これはわずか7名の被験者による短期的な実験で、長期的な近視の発症や進行を本当に抑えられるかどうかは不明です。
暗い背景に白文字を使うよりも、淡い黄色やクリーム色など、より目に優しい色の文字を使うと、まばたきの回数が増えて疲れが和らぐ傾向が見られるという考えもあります[1]。ただし、視力や年齢、目の病気などによって、「どんな色が読みやすいか」は変わってくるため、一概に「この色がベスト」とは言えないようです。
乱視や白内障があると、ダークモードは文字がにじんで見えにくいこともあり、結局は自分の目で試して決めるのが大切でしょう。
ここまでの研究結果をまとめると、次のようになります。
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小さい文字や明るい場所での長文読書にはライトモードが有利。
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暗い環境や夜間使用では、ダークモードでまぶしさを減らせる。
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近視抑制を期待させる研究もありますが、まだ証拠は限定的。
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人によっては文字色の工夫や背景の色調整で、疲れ方が変わる。

筆者作成(Claude利用)
最終的には「自分がどのような環境で、どのような作業をするか」によってモードを選ぶのが望ましいといえ、「ダークモードなら目が楽になる」と直結するわけではなく、休憩や照明の調節といった基本的な対策が大事であるといえます。
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