なぜ?ワクチンがあるのに水ぼうそう再流行 その背景とは
ある日の医局にて…
A先生「ほむほむ先生、先日、外勤先のクリニックで水ぼうそうのお子さんを何人か拝見したんですね。そして日本で今、水ぼうそうがまた増え始めているっていうニュースも見て、ワクチンもあるのに、どうして?って思ったんです。」
ほむほむ先生「A先生、こんにちは。そうなんだよ、水ぼうそう…いわゆる水痘だけど、このところ、ちょっと気になる動きを見せているんだ。」
A先生「ワクチンがあるにも関わらず、なぜ今、水ぼうそうが増えているんでしょう?」
ほむほむ先生「この再流行は、どうも単純な話ではなさそうなんだ。ワクチン接種の状況、新型コロナのパンデミックが残した影響、それから水痘・帯状疱疹ウイルス自体の厄介な性質…。色々なものが複雑に絡み合っているみたいだね。一つひとつ、じっくり解きほぐしていこうか。」
A先生「はい、お願いします!まず、現状から教えていただけますか?確か、2014年に水ぼうそうワクチンが定期接種になりましたよね?あれで、水ぼうそうって、すごく減ったんじゃないかと思っていたんですが…。」
ほむほむ先生「その通り。定期接種化のおかげで、水ぼうそうの患者さんは劇的に減ったんだよ[1]。」
A先生「それなのに、2024年頃から全国的に増加傾向にあるんですよね。埼玉県では2025年5月に史上初の流行注意報が出たとか[2]、沖縄でも同じような動きがあったとか[3]…一体何が起きているんでしょう?」
ほむほむ先生「うん、各地で報告が上がってきているね。特に僕が注目したのは、富山県の小学校で起きた集団発生のケースだ。2024年の6月までに、全校児童の約14%が感染したという報告でね[5]。」
A先生「じゅ、14%!?かなりの数ですよね…。」
ほむほむ先生「人数にすると約60人。でもね、本当に注目すべきはそこからなんだ。感染した子どもたちの、実に94%がワクチンを接種済みだったんだ。しかも、そのうちの約7割は、2回のワクチン接種をきちんと終えていたんだよ。」
A先生「94%が接種済みで、さらにその7割が2回接種も完了していたのに感染…ワクチンを打っていれば大丈夫、って単純に思っていましたけど…。」
ワクチン接種の「隙間」とブレイクスルー感染

ChatGPTで作画
ほむほむ先生「まさに、A先生が言うように、単純ではないんだ。これは、いわゆる『ブレイクスルー感染』、つまりワクチンを接種したにもかかわらず感染してしまう現象が、集団で起きたと考えられるケースだね[6]。」
A先生「ブレイクスルー感染…それがこんなに大規模に起こるなんて…。なんだか、ワクチンに対する信頼が揺らぎそうです。」
ほむほむ先生「気持ちはわかるよ。もちろんワクチンの効果が否定された訳じゃない。でも、これが今回の流行の背景を考える上で、すごく大切なポイントになるんだ。『免疫の隙間』とも言える問題を示唆しているわけだからね。」
A先生「免疫の隙間…ですか?」
ほむほむ先生「もちろん、水ぼうそうワクチンが非常に効果的なことには変わりないんだ。定期接種になって、日本における水ぼうそうの発生率は、定期的接種開始後、全体で76.6%、特に1~4歳児では88.2%減少したし [6]、コロナ禍ではさらにその数は抑えられていた。ただね、いくつか課題もあるんだ。例えば、ワクチンの2回目接種率。1回目の接種率は、1歳のお子さんで94%以上と非常に高い水準を維持している。これは素晴らしいことだよね[7]。」
A先生「ええ、それは本当にそう思います。」
ほむほむ先生「でも、2回目をきちんと完了している割合となると、データにもよるけれど、7割から8割台に下がる傾向があるんだ[7]。」
A先生「ああー…なるほど。1回目はしっかり受けるけど、2回目になると少し接種率が落ちてしまうんですね。どうしてなんでしょう?1回打ったからもう大丈夫、って思っちゃう親御さんもいるのかな…。」
ほむほむ先生「色々な理由が考えられるけれど、すくなくとも結果としては、単純計算で約15から20%くらいのお子さんが2回目を未完了のまま過ごしている可能性があるわけだ。」
A先生「15%から20%…クラスに数人はいる計算になりますね。それが全国規模となると、かなりの数に…。」
ほむほむ先生「それに加えて、ワクチンを接種していても、時間が経つにつれて少しずつ免疫の力が弱まってくる可能性がある。そして、さっき話に出たブレイクスルー感染の存在。こういった、いわば『免疫の隙間』を持つ人が一定数いることが、今の流行の素地になっているんじゃないかと考えられるんだよ。」
A先生「なるほど…。ワクチンの効果は絶大だけど、決して万能というわけではなくて、接種回数や時間の経過によって、どうしても『隙間』が生まれてしまう、ということなんですね。」
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- コロナ禍がもたらした「免疫ギャップ」
- 感染年齢の変化と意外な感染源「帯状疱疹」
- 複雑に絡み合う要因と、私たちにできること
- まとめ:水ぼうそう再流行、私たちにできること
- 参考文献
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