魚を食べると、認知症予防に働きますか?

魚にはオメガ3多価不飽和脂肪酸(DHAやEPA)と呼ばれる成分が多く含まれ、脳の老化をゆるやかにする可能性が指摘されています。では、魚と認知症予防にはエビデンスはあるのでしょうか。最新の研究をもとにわかりやすくご紹介します。
堀向健太 2025.03.12
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寿命が長くなった現代では、年齢を重ねるにつれて起こる物忘れや認知症が大きな問題です。

食生活は脳の健康にとっても大切なもので、特に魚に多く含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸(DHA「ドコサヘキサエン酸」やEPA「エイコサペンタエン酸」)が脳の働きを保つのに役立つ可能性があります。

このような背景のなか、先日このニュースレターで「子どもが魚を食べると、頭が良くなるか?」というテーマを配信したところ、家族から「大人、というか、私たちはどうなんだろう?」と質問されました。確かに、多くの人が気になるところでしょう。私もそうです。

そこで今回は、大人が魚を積極的に食べておくと、認知症になりにくくなったり、記憶力や脳の大きさが保たれたりするのかどうかについて、科学的な研究結果を用いて解説します。

魚と認知症リスクは関係する?

PhotoAC

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さまざまな観察研究(研究者が参加者に特別なことをさせずに自然な現象を観察する方法)によると、魚をよく食べる人は認知症になるリスクが低くなることが示されています

35件の観察研究(合計849,263人)を集めて分析したメタ解析によると、魚を多く食べるグループは、認知機能低下・認知症・アルツハイマー病(認知症の中で最も多い種類)のリスクがそれぞれ18~20%低下し、1日150g摂取すると30%も低下していました[1]。

筆者作成(Claude利用)

筆者作成(Claude利用)

ちなみに、この研究での「魚をよく食べる群」とは、1日あたり約150gの魚を摂るグループで、1回約105g、週に7回以上食べるという人たちです。これはかなりの量の魚を食べていることになりますね。

別の大規模な研究もあります。中国の60歳以上の6,981人において、過去2年間の魚を食べる頻度(なし、週1回、週2回以上、毎日)を質問し、認知症の程度を診断したところ、魚をよく食べるグループは食べないグループと比べ、認知症リスクが20%低下したという結果でした[2]。

日本の研究ではどうでしょうか。認知症に対する戦略を探るために実施されている日本の「大崎コホート研究」でも、魚をたくさん食べるグループで認知症になるリスクが16%ほど低く、魚の摂取量が増えるほどリスクが下がるという結果でした[3]。

これらの研究から、魚を食べることは認知症予防にいくらか効果がありそうです。

ただし、このような「観察研究」にはバイアス(偏り)が起こり得ることは知っておく必要があります。例えば、研究に参加する人は魚をよく食べる健康志向の人が選ばれやすい(選択バイアス)ことや、認知症の初期症状(またはその前兆)がすでに現れている場合に参加者の食習慣が変化する可能性がある(逆因果関係バイアス)などの問題点が考えられます。

ですので、実際に参加者をランダム(無作為)にグループ分けした研究結果も知りたいところですよね。

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