牛乳を飲むと背が伸びる?
牛乳は世界中で「子どもの身長を伸ばすのに役立つ飲み物」として古くから親しまれています。牛乳に多く含まれるカルシウムやタンパク質は骨や筋肉をつくる材料になり、成長期の子どもにとって重要な栄養素です。
では、牛乳を飲んだ分だけ身長は伸びるのでしょうか?
それとも、効果はないのでしょうか?
科学的な観点から、実際にどれほど効果が期待できるのかを紹介します。
乳製品を飲む国の人は身長が高い?

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牛乳を飲む習慣に関して世界を見渡すと、興味深い傾向があります。
20世紀以降、欧米諸国では牛乳をたくさん飲むようになると同時に、平均身長も伸びてきました。日本でも戦後、学校給食で牛乳が出るようになり、栄養状態が良くなって平均身長が伸びたことが知られています[1]。
また、北欧諸国やオランダなど乳製品をたくさん食べる国は、世界的に見ても平均身長が高いですよね。もちろんこれは、牛乳だけの効果とは言い切れません。遺伝的な背景や全体の食事バランス、生活環境なども関係しています。
ただ、乳糖を消化できる(乳糖耐性)遺伝子を持つ集団は、歴史的に乳製品をたくさん摂取することができ、身長も高い傾向があるという報告もあります[1]。
しかしこの場合も、遺伝子そのものが成長に直接関係しているのではなく、乳製品を食べやすい食文化が長い時間をかけて体格の違いを生んだ可能性が指摘されています[2]。
牛乳を飲むと本当に背が伸びるのか?

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さて、多くの観察研究では「牛乳をよく飲む子どもはやや身長が高い」という結果があります。
しかし、その差はとても小さく、他の食事の影響や遺伝的な要素も大きいことがわかっています。
アイオワ州で行われた、生まれてから17歳まで子どもを追跡調査した研究があります[3]。その結果、毎日コップ1杯(約236mL)多く牛乳を飲んだ子どもは、あまり飲まなかった子どもより17歳の時点で平均0.39cm背が高かったことがわかりました。そしてこの差は統計的に意味がある差がありました。
しかし、論文のなかでは「牛乳を飲むとわずかに身長が伸びる可能性はあるが、健康上の大きな意味があるかどうかはわからない」と結論づけられています。
0.39cmという差は、遺伝や他の要因による個人差(数cm以上)に比べるととても小さいからです。
動物性である牛乳と植物性ミルクで違う結果に?
カナダで行われた、2〜6歳の子ども5,034人を調査した研究があります[4]。
すると、豆乳やアーモンドミルクなどの植物性ミルクを飲んでいる子どもは、牛乳を飲んでいる子どもより身長が低い傾向が認められました。
具体的には、植物性ミルクを1日1カップ飲むごとに身長が平均0.4cm低く、1日3カップ飲む子どもは同じ量の牛乳を飲む子どもより平均1.5cm低かったのです。
これは、植物性ミルクを飲んでいる子どもは牛乳を飲んでいる子どもよりタンパク質や脂肪の摂取量が少なく、それが成長に影響した可能性があると、研究者は考えました。
ただし、これも、必ずしも牛乳が直接身長を伸ばすと証明するものではないですよね。家庭の食習慣の違いそのものが関係している可能性もあるかもしれないからです。
年齢によって効果が違う?

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牛乳の効果は年齢によって違いがあるかもしれないという研究結果もあります。
米国のジェームズ・マディソン大学の検討で、牛乳摂取と身長の関係を米国全国健康栄養調査のデータを分析した研究があります。この研究では、5〜50歳の13,072人で、子供(5〜11歳と12〜18歳)と大人に分けて調査しました[5]。
すると、子ども時代(5〜12歳と13〜17歳)の牛乳摂取量が多いほど、大人になってからの身長が高い傾向がありました。12〜18歳の思春期の子どもでも、牛乳摂取頻度と牛乳からのタンパク質・カルシウム摂取量が身長と関係していました。しかし5〜11歳の子供では、牛乳摂取と身長に関連は見られませんでした。
この研究の著者は、「思春期という成長が急に加速する時期に、タンパク質が豊富な牛乳を飲むことで初めて身長への効果が現れるのではないか」と推測しました[5]。
つまり、幼い頃は栄養が十分あれば遺伝子の計画通りにゆっくり成長しますが、思春期のホルモン変化の時期に栄養(特にタンパク質)が豊富だと、成長ホルモンの働きが活性化され、最終的な身長に差が出る可能性があるという考えたのです。
しかし、これらは観察研究の結果です。
観察研究は、研究者が参加者に何も介入せず、自然な状態を観察して記録する研究です。観察研究だと、牛乳をよく飲む子どもは、そもそも栄養バランスの良い食事をしている可能性もあり、それが身長に影響しているかもしれませんよね。
ですので、介入研究で確認する必要性があります。
介入研究は、研究者が意図的に参加者に何らかの介入(薬、治療法など)を行い、その効果を評価する研究です。
では、介入研究ではどうだったのでしょうか?
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