魚の骨はレントゲンに写らない?子どもの「誤飲事故」の知識

子どもが小さな物を誤って飲み込んでしまう「誤飲事故」。
特に1~3歳の幼い子どもに多く、救急受診の大きな理由となっています。しかし、病院で行われるレントゲン検査で、すべての異物が写るわけではありません。
例えば、意外にも魚の骨はほとんど写らないのです。誤飲事故とレントゲンの写る写らない問題を解説しました。
堀向健太 2025.03.10
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スーパーマンの透視能力は「X-ray vision(X線視力)」と呼ばれています。子どものころ、X線はなんでも見通すことができるすごい力だと思っていました。

ちなみに、『X線』と『レントゲン線』は同じものです。X線を発見したヴィルヘルム・コンラート・レントゲン博士の名前にちなんで「レントゲン線」とも呼ばれています

それはさておき、現実の医療現場では、レントゲン検査は思った以上に見通してくれません。例えば子どもが何かを誤って飲み込んでしまったとき、まずレントゲン検査が行われることが多いですが、すべてのものがレントゲンに写るわけではないのです。

例えば、「魚の骨はレントゲンでは普通は写らない」ということをお話しすると、多くの人が驚きます。

今回は、誤飲事故のときにレントゲン検査で写るもの、写らないものをお話ししましょう

子どもの異物誤飲の実態

小さい子どもは、興味を持った物を口に入れてしまうことがあります。

ですので、「異物誤飲」事故は、特に1~3歳くらいの乳幼児で頻繁に起こり、救急外来に受診される大きな理由の一つになっています[1]。

ある研究では、誤飲事故の約75%が4歳未満の子どもであると報告しています[1]。 日本国内の調査でも、生後半年から2歳前後で誤飲のピークがあり、3歳以下の事故が全体の89%、そのうち1歳児が全体の47%を占めたという報告もあります[2]。

筆者作成(Claude利用)

筆者作成(Claude利用)

子どもは成長に伴い手指が器用になり、行動範囲が広がることで、身近な物をつい口へ運んでしまうものなのです。

多くの誤飲は偶発的に起こり、家の中にある日用品やおもちゃが原因になります[1][2]。

良く事故を起こす、注意したい物は以下のようなものです。

  • 硬貨(コイン):海外の救急外来の研究でも全体の約23%と報告され、最も多い異物の一つです[1]。

  • 小さなおもちゃの部品:ボタン、ビー玉、レゴブロックなど、大きさや形状が子どもの口に入りやすいもの[1]。

  • ボタン電池:リモコンやおもちゃに使われるコイン形電池で、子どもでも簡単に外せる構造だと誤飲のリスクが上がります[3]。

  • 尖った・鋭利な物:画鋲やピン、爪楊枝、針など。

  • 食品のかたまりや骨:大きな食べ物(ブドウやソーセージ)や、魚や鶏の骨などが挙げられます。

  • たばこ:たばこが最も多い原因物とする報告もあり、ニコチン中毒の危険があります[2]。

誤飲による症状とリスク

PhotoAC

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異物を飲み込んでも、80~90%の異物は数日後に便とともに出てきます。しかし、10~20%は内視鏡を使った取り出しが必要になることがあります[1]。

外科手術を要するケースは約1%未満とされていますが[1]、以下のような物を誤飲したときは重篤な合併症を起こしやすいです。

小児科医が真っ青になる、『ヤバい相手』といえます。

・ボタン電池
食道などに引っかかると、電池の両極間で電流が流れ、周囲の組織が腐食されるため、2時間ほどで深刻な熱傷、さらには消化管に穴があくことがあります [4]。米国では電池の誤飲事故の約85%がボタン電池で、そのうち84%が5歳以下の子どもという報告があります[3]。

・強力な磁石(特に複数個)
ネオジム磁石など、強力な磁石を複数飲むと腸管を挟んで圧迫し、腸に穴をあけたり、腸同士がつながる瘻孔(ろうこう)が起こる恐れがあります[4]。

・尖った異物
針や画鋲、鋭い骨などは食道や腸に刺さり、まれに腸などに穴をあけます(穿孔)。その頻度は1%以下ですので、穿孔は決して多いものではありませんが、いったん穿孔が起これば、命にかかわる可能性があります[1][5]。

一方、丸みのある小物や紙片などは、そのまま自然排出されやすいとされています[1]。しかし「何を飲んだか分からない」「危険物の可能性がある」ときは、病院で診察してもらいましょう。

ただし、診察でも「わからない」ことが圧倒的で、レントゲン検査に写るものはごく一部です。そもそも「異物誤飲」が起こらないようにすることが重要です。

異物誤飲の種類と危険性

PhotoAC

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・ボタン電池の事故

ボタン電池が特に危険な理由は、電気分解で組織を短時間で深く傷つけることです[4]。米国のデータでは、ボタン電池の誤飲事故が大幅に増加しており[6]、日本でも同様です。

食道内にとどまると大変なことになるので、6時間以内を目安に内視鏡で緊急除去を行うよう推奨されています [3] [4]。ただし、子どもに内視鏡で除去を行うことが出来る病院は決して多くはなく、ここでも「誤飲の予防」が重要であることがわかりますね。

・磁石の事故

磁石を1個だけ誤飲した場合は経過観察で自然に便とともに排出されることが多いですが、2個以上だと腸管同士が引き寄せられ、組織をはさみ込んで穴をあける危険が高まります[4]。

・尖った異物・骨

魚の骨は細く柔らかそうに見えても、喉や消化管壁に刺さると炎症や膿瘍になることがあります[6]。ただし、鶏や牛など動物の骨は比較的レントゲンに写りやすい一方、魚骨はカルシウム量が少ないため写りにくいことがわかっています[7]。

レントゲン検査の基本

PhotoAC

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レントゲン検査は、体を透過するX線の量の差を画像化し、主に骨や金属など密度の高い部分をはっきり映し出す技術です。子どもの検査では放射線被ばく量をできるだけ低く抑えることを心がけています。

とはいえ、通常の胸部レントゲン1回あたりの被ばく量は自然放射線の2~3日分ほど(約0.01~0.02 mSv)です。もちろん、使用しないのであれば、そのほうが良いでしょうけれども、異物誤飲の場合はまず行われることが多い検査です。

画像検査の違い

  • 単純X線撮影:短時間で可能。硬貨や金属など放射線を通しにくい異物は発見しやすい。

  • 透視検査:X線を連続的に当ててモニターで観察。内視鏡で異物を取り出す際に位置を確認できて便利ですが、被ばくが増えるため必要最小限にとどめます。

  • CT検査:複数方向からX線を当てて断面画像を作ります。レントゲンで見えない物質や合併症(穿孔など)を詳しく評価できますが、被ばく量が増える点には注意が必要です。

筆者作成(Claude利用)

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では、これらの検査で写る物体はどれでしょうか?

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続きは、4630文字あります。
  • レントゲン検査で見えるものと見えないもの
  • 検査の限界と対応策
  • 事故を防ぐために
  • まとめ
  • 参考文献

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