重症アレルギーの対応薬『アドレナリン』が、近い将来、痛みなく使えるようになるかもしれないという話
食物アレルギーをもつ方は、大幅に増えています。
日本において、食物アレルギーを持つひとは、この10年ですべての年齢で増加し、特に6歳未満のお子さんでは1.7倍に増えているそうです[1]。そして英国からの報告では、『アナフィラキシー』を起こし入院される方も増えていると報告されています[2]。
文献1より引用
私の外来へご紹介いただく患者さんも、最も多いのは食物アレルギーの患者さんであり、その増加を肌で感じています。
アナフィラキシーとは、呼吸困難、血圧低下、意識消失などを起こし、命に関わることもある重篤なアレルギー反応のことです[3]。
要は、『命に関わる強いアレルギー反応』といえば良いでしょう。
この危険な状態を治療する薬剤が、アドレナリン(エピネフリン)です。ですので、アドレナリンを適切に使用することはとても重要です。
現在、アドレナリンは主に、筋肉注射で使用されています。
アドレナリン筋肉注射は、効果が高く確実に使用することができ、数分で効果を発揮するという大きな利点があります[4]。
アナフィラキシー時にアドレナリンは、症状が起こったらすぐに使用する必要性があります。そのため、病院に受診する前に使用することが勧められます。
しかし最近は、多くの医療関係者の努力もありながらも、救急車の現着時間、そして病院収容までの搬送時間も長くなっています。2023年の、救急車の現場到着所要時間は全国平均で約10.3分、病院収容所要時間は全国平均約47.2分であり、前年よりも長くなっています[5]。
すなわち、病院に受診する前に、『自分自身で』アドレナリンを使用することが重要になるわけですね。
そこで、『エピペン』という、患者さん自身で自分自身に使用するキットが普及しています。
アナフィラキシーの対応やエピペンの使用方法などに関しては、以前VIATRIS社さんの情報マンガの監修をしたことがありますので、もしよろしければご覧くださいませ。
しかし、『注射』であることは、確実、かつ即座に効果があるという利点もある一方で、問題点もあります。
フランスの薬物監視データベースの分析では、アドレナリン自動注射器(エピペンですね)で起こった問題の多くは、間違って使用した事故だったとされています[6]。すなわち、『使用するべき箇所に打つ前に、自分の手に打ってしまったりする』という事故が起こりえるということです。
そして、注射への恐怖、投与の難しさ、痛み、保管の難しさなど、問題点も指摘されています[7]。
そこでこれらの問題を解決するために、新しい投与方法の研究が進められています。今回は、そのような新しいアドレナリンの薬剤に関する解説をしてみたいと思います。
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