熱中症にも『長く続く後遺症』がある?
今年も、すごく暑い夏になっており、熱中症に注意が必要です[1]。
熱中症は、気温、湿度が高い環境にさらされることで体温を正常に保つことができなくなり、体の様々な部分の働きが悪くなります。
その結果、めまいがしたり、頭が痛くなったり、吐き気がしたり、ひどくなると意識を失うこともあります。
小児科外来でも、熱中症が疑われる患者さんが増えている印象です。
熱中症になっても適切な処置を受ければ数週間以内に完全に回復すると考えられていました。
しかし熱中症は、一時的な症状だけでなく、長く続く影響を残すことがあることもあります。
すなわち『後遺症』があるということです。
では、どのような後遺症が起こりやすいのでしょうか。治ってくるのでしょうか。
そこで今回は、子どもだけではないテーマではありますが、『熱中症の長期続く後遺症』に関して、解説します。
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熱中症は短期的な後遺症だけでなく長期的な後遺症もある
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熱中症の後遺症として最も多いのは、脳や神経系に関するものです。
なぜなら、脳は熱に弱いからです。
熱中症で脳が高温にさらされると、脳細胞がダメージを受けることがあります。その結果、意識がはっきりしない、物事を覚えにくい、体を思い通りに動かせない、うまく話せないなどの問題が残ることがあります[2]。
脳以外にも、腎臓や心臓にも後遺症が出ることがあります。熱中症で入院した人は、その後、心臓や血管の病気で亡くなるリスクが高くなるという報告もあります[3]。
熱中症が長期的な後遺症を起こす理由
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では、なぜ熱中症はこのような長期的な影響を引き起こすのでしょうか?
主に3つの理由があります。
1) 高熱による細胞への直接的なダメージ
体の中心部の温度が40℃を超えると、細胞の中のタンパク質が変性し始め、細胞が傷みます。例えば、卵を熱すると白身が固まりますが、それと似たようなことが体の中で起きると言えます。
2) 炎症反応
熱中症になると、体の中で『炎症』が起こります。
炎症は体を守るための反応ですが、強すぎると逆に体に悪影響を与えます。例えば、消化管などの臓器にダメージを与えることがあります。
3) 多臓器不全
熱中症が重症化すると、複数の臓器が同時に正常に働かなくなることがあります。これを「多臓器不全」と言います。
例えば、心臓、肺、腎臓が同時に機能低下するような状態です。これが起こると生命の危険があるだけでなく、回復後も様々な後遺症が残る可能性が高くなります[4]。
熱中症が長期的な後遺症を起こすリスクは、どれくらい上がるのか?
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熱中症による長期的な影響(後遺症)がどのくらいの頻度で起こるのでしょう。
1) 神経系の後遺症
まず、もっとも起こりやすい脳や神経系への影響についてです。
研究によると、環境による熱中症(例えば、暑い日に外で運動して熱中症になるなど)にかかった人の約4分の1(23.3%)が、長期間にわたって脳や神経の問題を抱えていたそうです[2]。そして熱中症の後に神経系の問題が残った人の71.4%に、小脳(バランスを取る役割がある脳の一部)の機能障害が見られました。小脳は熱に弱いようです。
具体的には、66.7%の人に体を動かす機能の障害が、9.5%の人に考えたり判断したりする能力の障害が、19%の人に両方の障害が、4.7%の人にその他の障害が見られました[2]。
もちろんこの数字は、重症の方を中心としたデータですので、熱中症全員にこのような高い率にはならないと思われますが、注意が必要と言えるでしょう。
また別の研究では、75歳以上の高齢者を調べたところ、脳卒中を経験した人の約3分の1に認知症(物忘れがひどくなる病気)が見つかりました。これは、脳卒中を経験していない人と比べて3倍も高い割合でした[5]。