筋トレをすると身長の伸びが止まる?止まらない?
今月三本目、そして今年最後の記事です。9月くらいまでは、かなりの本数をお届けできていましたが、徐々に息切れしてしまいました。とはいえ、一本一本の質を上げられるように努めてきたつもりですが、いかがでしょうか…
これもひとえに、多くの登録者の方々、そしてサポートメンバーの方々のおかげです。心より深謝申し上げます。来年は、質を保ちながら、もう少し更新頻度を上げていきたいと思っています。
この記事は、サポートメンバー向けの記事です。
冬の午後の医局。少し冷え込んできた空気の中、研修医のA先生がスマホの画面を凝視しながら、指導医のほむほむ先生に駆け寄ってきました。
A先生「ほむほむ先生、見てください!この記事、驚きました。子役で有名だった寺田心さんが、中学から高校の間に身長が50センチも伸びて、今は177センチ以上あるそうなんです。しかも、ベンチプレスを115キロも挙げるとか……[1]」
ほむほむ先生「ああ、その記事は私も目にしたよ。成長期の変化としては“思春期の身長スパート”の範囲でもあり得るし、トレーニングや栄養への意識が高い方ほど、生活全体が整いやすい面もありますしね。でも、ストイックに自分を磨き上げた結果が、体格にも現れているのかもしれないよね」
A先生「でも、不思議なんです。世間ではよく『子どもが筋トレをしすぎると背が止まる』って言われるじゃないですか。彼は週5、6回もジムに通っているそうですが、それでこれだけ身長が伸びるなんて、何か特別な魔法でもあるんでしょうか? それとも、やはり筋トレと身長は関係ない……?」
ほむほむ先生「ふふ、実は、彼のエピソードには、私たちが親御さんからよく受ける『筋トレへの不安』を解消する重要なヒントが隠されているんですよね。A先生、以前受け持った患者さんで、運動のことで悩んでいた子はいませんでしたっけ?」
A先生「あ……。そういえば、サッカーを頑張っている中学生の男の子がいました。お母さんが『もっと当たり負けしないように筋トレをさせたいけれど、背が止まるのが怖くて……』と相談されたんです。その時は、なんとなく『無理は禁物ですよ』としか答えられなくて。」
ほむほむ先生「なるほど…。じゃあ、今日は、寺田心さんの話を入り口にして、最新の論文を紐解きながら、『筋トレは背の伸びを止めるのか、それとも止めないのか』を、一緒に深掘りしていこうか。」
本記事を最後まで読めば、
・筋トレが身長を阻害する?しない?医学的なエビデンスとは
・骨を伸ばすために必要な「刺激」と、避けるべき「負荷」
・将来の健康を守る「骨の貯金」と、安全なトレーニング法
これらの疑問にお答えできるよう執筆しました。
最初に、この記事のまとめの図をお示しします(Action Planは記事の最後にお示しします)。
根強い俗説「筋トレで背が止まる」の正体を暴く
nano-bananaで作画
A先生「先生、そもそもどうして『筋トレ=身長が止まる』という説が、これほどまでに根強く信じられているのでしょうか? 寺田心さんのような例があっても、まだ不安に思う方は多いですよね」
ほむほむ先生「それは、私たちの脳が陥りやすい『選択バイアス』という現象が原因かもしれないね。例えば、オリンピックの重量挙げ(ウエイトリフティング)の選手を思い浮かべてみてよ。小柄でガッシリした方が多い印象はないかな?」
A先生「確かに……。だから『重いものを持つトレーニングを続けたから、背が伸びなかったんだ』と直感的に結びつけてしまうのかも。」
ほむほむ先生「そうだね。でも、事実は逆なんだ。スペインのアリカンテ大学が行った2021年の研究がある。すると、重量挙げの競技成績と体格の関係を分析したんだけど、腕が相対的に短い選手ほど、バーベルを持ち上げる距離が短くなり、力学的に有利になることが示されたんだ[2]。つまり、『筋トレをしたから小柄になった』のではなく、『小柄な体格がその競技に有利だから、トップ選手に小柄な人が残った』だけと考えられるんだね」
A先生「なるほど!バスケットボール選手に背が高い人が多いのは『バスケをしたから背が伸びた』わけではなく、『背が高いからバスケで活躍できた』のと同じ理屈ですね。因果関係が逆転しているんだ……」
歴史の影と「物理的なイメージ」の罠
nano-bananaで作画
ほむほむ先生「さらにもう一つ、歴史的な背景もあるかもしれない。かつて児童労働が一般的だった時代、過酷な環境で重い荷物を運ばされていた子どもたちの成長が悪かったことがあったんだ。しかし、それはトレーニングのせいではなく、極度の栄養不足や過労、睡眠不足が原因だったといえるよね」
A先生「現代の、栄養管理された中での筋トレとは全く状況が違いますね。でも、親御さんにしてみれば『重いものが上から体を押しつぶす』というイメージが強烈すぎて、どうしても怖いのかもしれません」
ほむほむ先生「そうですね。僕らは、目に見える『重さ』という物理的な力に対して、本能的に恐怖を感じるよね。しかし、人体はそんなに単純な構造ではないんだ。実は、骨を伸ばすためには『ある程度の圧力』が必要ともいえるんだ。ここから、骨のミクロな世界を覗いてみようか」
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