「厚着で汗をかけば治る」は危険?発熱時の真実と3つのリスク
今月初めてのニュースレターをお届けいたします。今月は更新が滞っていましたが、ようやく少し時間が取れるようになってきました。今年の残りの期間も、皆さんにお役に立つ記事をお届けしていきたいと思っています。
今日も最後までお付き合いいただければ幸いです。
救急外来の夜明けのなかの違和感
(12月の冷え込みが厳しくなってきたある朝。小児科の医局にて。救急外来での長い当直を終えた研修医のA先生が、ため息交じりに立ち尽くしている。その背中には疲労と共に、どこか納得のいかない「もやもや」が漂っていた。)
ほむほむ先生「おはよう、A先生。なんだか背中が語っているね。昨晩の救急外来、かなり忙しかったみたいだけど、何か気になることでもあった?」
A先生「あ、ほむほむ先生……おはようございます。実は、昨日の夜中に診た1歳の男の子のことが、頭から離れないんです。高熱で運ばれてきたんですが、来院した時、その子、まるでサウナに入った直後みたいに全身汗びっしょりで、顔も真っ赤で……。」
ほむほむ先生「ふむ。この時期には珍しいね。外はこんなに寒いのに。」
A先生「そうなんです。お母さんが『早く熱を下げなきゃ』って焦ってしまって、フリースのパジャマの上にさらに厚手のスリーパーを着せて、羽毛布団でぐるぐる巻きにしていて。診察のために服を脱がせたら、湯気が立つんじゃないかってくらいの熱気だったんです。お母さんは『汗をかけば熱が下がるって聞いたから、頑張って温めました!』っておっしゃっていたんですけど……。」
ほむほむ先生「なるほど。その男の子、ぐったりしていなかった?」
A先生「はい、それが気がかりで。熱の高さ以上に、ぐったりと消耗しきっているように見えたんです。点滴をして、薄着にしてクーリングしたら顔色が戻りましたけど、あの『厚着ケア』、正しかったんでしょうか? 昔から『風邪は汗をかいて治せ』って言いますけど、あの時のあの子の様子は、体に負担がかかっているようにしか見えなくて。」
ほむほむ先生「A先生、その『違和感』はとても大切だよ。実はね、その『汗をかいて治す』という日本の伝統的な民間療法、体温調節のメカニズムから見ると、因果関係が完全に逆なんだ。それどころか、A先生が感じ取った通り、場合によってはその子の命を危険にさらしていた可能性すらある。」
A先生「えっ、命の危険……ですか? ただの風邪のケアの話だと思っていたのに、そこまで重大な話になるんですか?」
ほむほむ先生「ああ。特にこれからの季節は『乳幼児突然死症候群(SIDS)』のリスクが高まる時期でもあるよね。SIDSと『厚着・過熱』には、無視できない関連があるんだよ [1][2][3]。」
本記事を最後まで読めば、
・汗をかけば熱が下がるのは本当?(医学的な因果関係の真実)
・なぜ「厚着」がSIDSや脱水のリスクを高めるのか?
・世界標準の「発熱時の根拠のあるホームケア」とは?
これらの疑問に、最新の論文データに基づきお答えできるよう執筆しました。
汗のミステリー ~原因か、それとも結果か?~
nano-bananaで作画
A先生「先生、さっき『因果関係が逆』とおっしゃいましたよね。でも、実際に自分自身でも経験があるんです。風邪をひいて、布団にくるまって寝て、起きたらびっしょり汗をかいていて、そのあと熱が下がってスッキリした……という経験が。あれは気のせいだったんでしょうか?」
ほむほむ先生「いい質問だね。A先生が感じた『汗をかいた後に熱が下がった』という事実、それ自体は嘘じゃない。でもね、ここで大事なのは『汗をかいたから(原因)、熱が下がった(結果)』のか、それとも『脳が体温を下げるモードに切り替えたから(原因)、汗が出た(結果)』のか、という“時間の矢印”なんだ。」
A先生「時間の矢印……。普通に考えれば、汗が蒸発するときに気化熱で体温を奪うから、汗が原因で熱が下がるんじゃないんですか?」
ほむほむ先生「物理現象としてはそう見えるよね。でも、人体の司令塔である『脳』の視点で見ると話は別だ。ここで登場するのが、いわゆる『セットポイント理論』だよ。多くの生理学の教科書や総説では、発熱を『視床下部の体温セットポイントの上昇』と定義している [4][5]。」
nano-bananaで作画
A先生「セットポイント……エアコンの設定温度みたいなものですね?」
ほむほむ先生「その通り。まさにエアコンの温度調整装置、サーモスタットだね。普段、僕たちの脳は設定温度を『だいたい37℃前後』に保っている。でも、インフルエンザウイルスのような敵が侵入してくると、免疫細胞が戦いを始めて、『サイトカイン』や『プロスタグランジンE₂』という警報物質を出すんだ[6]。」
A先生「サイトカインという警報物質…IL-1βとかIL-6とかですね。生理学で習いました。」
ほむほむ先生「そうだね。これらが脳の血管内皮細胞などを介して視床下部の神経回路に作用し、『敵と戦いやすいように、体温の設定をもっと高くしよう』という指令が出る。すると脳は『設定温度を39℃へアップ!』と決断するわけだ [6]。」
A先生「つまり、体が壊れて勝手に熱が上がっているんじゃなくて、脳が“意図的に”体温を上げているんですね。」
ほむほむ先生「その通り。発熱は『視床下部のセットポイントが上がることによって生じる、制御された体温上昇』と定義されているんだ。一方で、セットポイントが上がっていないのに外部要因で体温だけが上がってしまう状態を『高体温』と呼び、発熱とは区別しているんだ [4]。
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- 「悪寒」と「汗」は、脳のスイッチの裏返し
- 良かれと思った「厚着」が招く3つの問題
- リスク①:うつ熱(管理不能な高体温)
- リスク②:脱水の加速
- リスク③:乳幼児突然死症候群(SIDS)との関連
- 世界標準の「温度調整ケア」~私たちは子どもの応援団~
- ✅ 服装:薄手1枚+必要に応じて調整
- ✅ 室温:大人が薄着で快適に感じる20〜23℃前後
- ✅ 布団:掛けっぱなしにしない、「脱ぎ着で調節」が鉄則
- ✅ 水分:最大の“治療薬”
- 最後に:知識は愛情を「根拠のある形」にする
- まとめ
- 参考文献リスト
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