マクロライド系抗生物質は、不整脈のリスクに繋がる?そのリスクを改めて考える
2024年11月、兵庫県立こども病院で、生後6ヶ月の女の子が抗生物質の過剰投与後に亡くなるという痛ましい事故が起きました[1]。
赤ちゃんは先天性の病気で入院されていましたが、肺炎の症状が出たため、抗生物質のアジスロマイシン(商品名ジスロマック)を点滴で投与することになりました。 しかし、医師の指示に誤りがあり、通常の5倍の濃度の薬が2時間かけて投与するべき薬を1時間で投与されたとされています。
抗生物質は、私たちの体の中の「悪い微生物」と戦ってくれる大切な薬です。 しかし、使い方を間違えると、リスクが高まる可能性がありますし、そもそも、通常の量でもリスクは存在します。
現在、マイコプラズマが流行していて、肺炎を起こしやすい微生物です[2]。
アジスロマイシンは、マイコプラズマによく使用される抗生物質ですので、マイコプラズマに罹患していた可能性が疑われて使用の方向になったとのことでした。
アジスロマイシンは比較的安全性が高い薬です。しかし、稀に心臓の拍動リズムに影響を与える可能性があることが知られています。
改めて、抗生物質に関して考える機会と考え、今回の記事を書くことにいたしました。
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マクロライド系抗菌薬は、細菌の増殖を抑え肺炎などの感染症治療に使用されます。
マクロライド系抗菌薬は、肺炎などの感染症治療によく使われる抗生物質です。細菌のタンパク質の合成を邪魔することで細菌の増殖を抑えます[3]。
マクロライド系と呼ばれるグループには、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンが含まれます。
構造的にはどれも大きなラクトン環という輪っか構造を持つことが特徴です。
『マクロライド』とは、ギリシャ語で「大きな」を意味する『マクロ』と、ラクトン環という化学構造を指す『ライド』がくっついてできています。つまり、マクロライドとは「大きなラクトン環」という意味で、環の大きさやその他の構造の違いから、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど、いくつかの種類があるのです。
マクロライド系抗生物質は、心拍のリズムを乱し不整脈を起こすことがあります。
イラストAC
さて、マクロライド系抗生物質は、一部の患者さんで心臓の不整脈を引き起こす可能性があることが分かっていると、最初にお話しましたね。
不整脈とは、心臓の拍動のリズムが乱れることです。 健康な人の心臓は、規則正しいリズムで動いています。このリズムが、何らかの原因で乱れてしまうのが不整脈です。
マクロライド系抗生物質、特にエリスロマイシンとクラリスロマイシンは、心臓の動きを電気的な信号で記録する心電図で観察できる、QT間隔という値を延長させることがあります。QT間隔とは、心臓が1回拍動する間の特定の時間を表す値です。
不整脈には様々な種類がありますが、大きく分けると次の3つのタイプがあります。
まず、期外収縮といって、脈が飛ぶ、またはドキッとするタイプです。 健康な人にもよく見られ、治療が必要ない場合が多いです。
次に、徐脈といって脈が遅くなるタイプ です。 だるさや息切れ、めまい、意識消失などを引き起こすことがああります。
最後に、頻脈といって脈が速くなるタイプです。 動悸やめまい、失神などを引き起こすことがあります。
特に、エリスロマイシンとクラリスロマイシンは、このQT延長を起こし、徐脈を引き起こすことがあることが知られています[4]。なお、アジスロマイシンは比較的その作用が弱いとされています。
では、なぜマクロライド系抗菌薬を使うと、QT延長症候群を起こしやすくなるでしょうか。
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- 心臓のリズムを制御するイオンチャネルは、マクロライド系抗菌薬によって影響を受けることがあります。
- マクロライド系抗生物質は、高齢者や心臓病の方、カリウム値が低い方で特に注意が必要です。
- アジスロマイシンによるQT延長のリスクは1.4倍に増加しますが、重症な不整脈の発生は稀と考えられています。
- トルサード・ド・ポワントは心室の不規則な収縮により突然死の危険もある重症不整脈です。
- アジスロマイシン投与による重症不整脈は稀です。しかし、特定の条件下でリスクが高まります。
- マイコプラズマ感染症は稀に心筋炎を引き起こし、不整脈のリスクを高めることがあります。
- 【参考文献】
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