「フルミスト」の危険な使い方と副反応とは?【フルミスト徹底解説 後編】

前編で掘り下げたフルミストのメカニズム。しかし、フルミストには「使ってはいけない」もしくは「要注意」の人たちもいらっしゃいます。そして、様々なギモンが…インフルの薬を飲んだ後に使える?喘息の子どもは?卵アレルギーなら?ワクチンで検査が誤って陽性になってしまう期間は?さらには、国や地域で考え方が異なるというややこしさ。後編では、それらの点を、詳しく見ていきましょう。
堀向健太 2025.11.06
読者限定

インフルエンザが流行し始めた小児科外来で始まった「フルミスト」のレクチャー。さらに今回は、「禁忌(使ってはいけない)」や「要注意」のパターンに関して解説していきます。
後半は実践編。でも、前半を読んだあなたなら、「なぜなのか」が理解できるはず。
一緒に学んでまいりましょう!

※前編はこちら(メールアドレス登録後に無料閲覧できます)。
【インフル対策】フルミストと注射の「根本的な違い」とは?【フルミスト徹底解説 前編】

***

絶対に接種してはいけない「禁忌」と「要注意」

ChatGPTで作画

ChatGPTで作画

A先生「ここからが特に重要だと思いますが、接種してはいけない、いわゆる『禁忌』について詳しく教えてください。」

ほむほむ先生「非常に重要だね。まず、日本の添付文書で『禁忌(接種不適当者)』とされているのは、発熱している方、重篤な急性疾患にかかっている方、過去に本剤の成分でアナフィラキシーを起こしたことがある方、明らかな免疫不全や免疫抑制治療を受けている方、そして妊娠している方などになっている[15]。これらに該当する場合は接種できないんだ。」

卵アレルギーは「禁忌」?「慎重接種」?

ChatGPTで作画

ChatGPTで作画

A先生「先生、ちょっと待ってください。アレルギーというと、よく『卵アレルギー』は禁忌だと聞くんですが、それはどうなんでしょうか?」

ほむほむ先生「ああ、A先生、とても大事なポイントに気づいたね。実は、その『卵アレルギー=禁忌』という認識は、国や基準によって扱いが違うという、ややこしいことになっているんだ。」

A先生「えっ、国によって違うんですか!?それは...保護者の方に説明するときに困りますね...。」

ほむほむ先生「そうなんだよね。まず、日本の添付文書を見てみよう。日本では『本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがある者』が禁忌になっている[15]。つまり、卵そのものが名指しで禁忌にされているわけではないんだね。」

A先生「じゃあ、卵アレルギーがあっても接種できるんですか?」

ほむほむ先生「そこが慎重な判断が必要なところで、日本の添付文書では『本剤の成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈するおそれのある者』は『接種要注意者(=慎重接種)』とされています[15]。つまり、一律ダメではなく、リスクを評価して慎重に判断しましょう、という立場だね。」

A先生「なるほど。日本では『絶対禁忌』ではないけれど『慎重接種』...。では、海外ではどうなんですか?」

ほむほむ先生「例えば欧州(EMA)では、『卵または卵タンパク(例:オボアルブミン)に対する重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)』は禁忌として明記されている[16]。」

A先生「欧州は重度なら禁忌、とはっきりしているんですね。アメリカはどうでしょう?」

ほむほむ先生米国はさらに少し複雑なんだよね。FDA(食品医薬品局)のラベル(添付文書)上は、欧州と似ていて『本剤成分(卵タンパクを含む)による重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)既往』は禁忌とされている[17]。ところが、実際にワクチン接種の現場で使われるACIP(予防接種諮問委員会)の実務勧告では、2023-24シーズン以降、『卵アレルギーのみの場合は、追加の安全対策は不要で、どのインフルエンザワクチンも接種可』とされているんだよね[18]。」

A先生「ええー!?ラベルでは禁忌なのに、運用上はOKなんですか?なんだか混乱してきました...。」

ほむほむ先生「まあ、無理もないよねえ。要するに、

  • 日本は、『成分アナフィラキシー』が禁忌で、『卵アレルギーのおそれ』は慎重接種

  • 欧州は、『重度(アナフィラキシー)の卵アレルギー』は禁忌

  • 米国は、ラベル上は『重度の卵アレルギー』は禁忌だけど、実務上(ACIP)は『卵アレルギーのみ』なら接種可

という整理になる。
だから、日本で診療する僕たちは、まず『卵アレルギー=一律禁忌ではない』こと、そして『慎重接種』の対象であるため、接種前に医師としっかり相談する必要がある、と説明するのが正確だね。そもそもがフルミストに含まれる鶏卵の蛋白量は1本あたり24ng未満、すなわち0.000000024 gというすごく少ない量だから[19]、個人的には「少量でも鶏卵を食べられる子どもならまず大丈夫」と考えているよ。」

A先生「ありがとうございます。複雑ですが理解できました!アレルギー関連では、他に注意すべき成分はありますか?」

ほむほむ先生「フルミストの成分として、ゼラチンなどに対して重篤なアレルギーがある方も禁忌対象になり得るね。特にゼラチンアレルギーは注意が必要だね。」

A先生「『適応なし』の年齢(2歳未満と19歳以上)はよく分かりました。では、アレルギー以外の基礎疾患で、臨床現場でよく注意点として挙げられる『喘息』については、どう整理できますか?」  

この記事は無料で続きを読めます

続きは、16326文字あります。
  • 喘息の子どもへの接種は?
  • 抗インフルエンザ薬(タミフル等)との「干渉」
  • アスピリン、妊娠・授乳中などの注意点
  • ワクチンウイルスの「排出」と「副反応」 周りの人やペットにうつる?
  • どんな副反応がある?
  • よくある疑問 Q&A
  • 注射とフルミスト、どう選ぶ?
  • まとめ
  • 参考文献(前編の文献も含む)

すでに登録された方はこちら

提携媒体・コラボ実績

読者限定
【インフル対策】フルミストと注射の「根本的な違い」とは?【フルミスト徹...
サポートメンバー限定
オーガニック食品はアレルギーに効く?効かない?海外の大規模研究や定義な...
誰でも
【ノーベル賞受賞】「Treg細胞」の謎に迫る~アクセルとブレーキ?免疫...
サポートメンバー限定
最新研究で分かった「塗らない方が良い」保湿剤の見分け方
サポートメンバー限定
妊娠中のアセトアミノフェン、本当にこわい?最近の研究結果と発達障害との...
サポートメンバー限定
アレルギーの犯人「IgE」を追え!謎の物質を追った日本人夫妻の物語
サポートメンバー限定
ビタミンDがアレルギーの予防に働く?専門医が解説
サポートメンバー限定
新生児からの保湿、結局どうなの?アトピー予防の大論争に専門医が答える