インフルエンザ薬「ゾフルーザ」に「顆粒」が登場。1回服用の新薬、わが子にどう使う?
今月3本目の記事です。離乳食の話題を用意してきていたのですが、その前にインフルエンザの流行が大きくなってきています。そこで、インフルエンザの話題を先に持ってくることにいたしました。
先日、アトピー性皮膚炎の講演をさせていただいたときの座長の先生(私の恩師と同年代の先生)に「ニュースレター課金しているよ」と言っていただき、そして病院の管理課で課長の方とお話していると、横で聞いていらっしゃた事務員の方から「ニュースレター読んでます!」と声をかけていただいたり、ある経済系のYouTube番組のMCの方からも「記事を読んだのですけど」とご連絡をいただいたり…読者の方が広がっていることを実感します。
いつもありがとうございます!
インフルエンザが流行しています。小さなお子さんが高熱を出すと、ご家族は本当に心配ですよね。
そんな中、2025年秋から、インフルエンザ治療薬「ゾフルーザ(一般名:バロキサビル マルボキシル)」に体重20kg未満のお子さん向けの「顆粒2%」製剤が承認され、11月には体重10kg未満の低体重児も含めて使える形で発売された、というニュースがありました[1]。
ゾフルーザは「1回飲むだけで治療が終わる」という薬として登場しましたが、
・「タミフルと何が違うの?」
・「特に小さい子に使っても本当に大丈夫なの?」
といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そこで、小児科医の視点から、ゾフルーザのメリットと、なぜ日本の小児科学会が「慎重な姿勢」も同時に示しているのか、その理由をできるだけわかりやすく解説します。
(小児科の医局。研修医のA先生が、慌ただしく医局に戻ってきた。)
A先生「はぁ…、今日の外来、インフルエンザの患者さん、本当に多かったですね。高熱でぐったりしたお子さんを見ると、こっちまで苦しくなります…。」
ほむほむ先生「お疲れさま、A先生。本当に、この時期はご家族も僕らも気が抜けないね。インフルエンザの迅速検査キットが、あっという間になくなっていくよ。」
A先生「そういえば先生、さっきネットニュースで見ました。ゾフルーザの『顆粒』が出たんですね!体重10kg未満から使えるようになったって[1]。」
ほむほむ先生「ああ、見たよ。2025年の秋に承認されて、11月から使えるようになった[1]、あの新しい剤形だね。」
A先生「はい!これ、すごいことじゃないですか?今まではタミフルを5日間、朝晩飲んでもらってましたけど、『うちの子、薬を嫌がって毎食バトルです』って泣きそうなお母さん、すごく多いですし…。『1回で終わる』なんて、まさに救世主ですね」
ほむほむ先生「(苦笑しながら)A先生の興奮はよく分かるよ。確かに、あの『1回で治療終了(単回投与)』というのは、タミフルが『1日2回・5日間(合計10回)』[2]だったことを考えると、小児科領域では本当に大きなインパクトがあるよね。」
A先生「ですよね!?外来で『5日間、頑張って飲ませてくださいね』って言う時の、あのお母さんの『うっ…』ていう顔が、これで減るかと思うと…!でも先生、実際のところ、タミフルと比べてどうなのか、親御さんにはどう説明したらいいのか、ちょっと自信がなくて…。今日はそのあたりを、しっかり教えていただきたいです!」
ほむほむ先生「うん、いいテーマだね。A先生が言う通り、ただ『1回で楽ですよ』だけじゃ説明として不十分だ。メリットも、そして僕たちが知っておくべき『懸念点』も、両方セットで理解しておく必要がある。じゃあ、今日は『ゾフルーザとどう向き合うか』、一緒に整理してみようか。」
本記事を最後まで読めば、
・1回で終わる「ゾフルーザ」の本当の実力は?
・なぜ小児科学会は「慎重に」と言うの?(耐性ウイルスの問題)
・わが子にとって「タミフル」と「ゾフルーザ」どちらを選ぶべき?
これらの疑問にお答えできるよう執筆しました。
「1回」のインパクトは?タミフルとの違いを比較
ChatGPTで作画
A先生「まず、一番知りたいのが『効き目』です。1回で終わる分、効果がマイルドだったり…とか、そういうことはないんですか?」
ほむほむ先生「うん、そこが一番の関心事だよね。じゃあ、まず『効果』、つまり熱や症状がどれくらい続くか、という点から見ていこう。最近、小児を対象にした複数の研究をまとめた解析がいくつか出ているんだ。」
A先生「メタ解析ですね。信頼性が高い…。」
ほむほむ先生「そう。それによると、『発熱している時間』については、ゾフルーザはタミフルと比べて、少し短くなる傾向があると報告されているんだ[3]。」
A先生「お!やっぱり熱は早く下がるんですね!それはすごく助かります。」
ほむほむ先生「そうだね。高熱が1時間でも短いのは、子どもにとっても家族にとっても大きなメリットだ。ただ、ここで一つ注意点がある。咳や鼻水、体のダルさ(倦怠感)なんかも含めた『症状全体の続く期間』で見ると、タミフルとゾフルーザでは『ほとんど差がない』、あるいは『ごくわずかな差にとどまる』とした研究もあるんだ[4]。」
A先生「え、そうなんですか?熱は早く下がるけど、咳や鼻水は同じくらい続く…と。」
ほむほむ先生「そういうこと。だから『ゾフルーザを飲んだら、翌日には元気に』とまでは期待しすぎない方がいいよね。『熱のピークを少し抑えやすい』くらいのイメージが、一番現実に近いかな。」
A先生「なるほど…。イメージがだいぶ具体的になってきました。他に、タミフルより『強い』と言える点はないんですか?」
ほむほむ先生「B型インフルエンザに関しては、少しポジティブなデータがあるね。いくつかの研究で、ゾフルーザはタミフルと比べて、発熱期間やウイルス量の減少が『同等か、やや優れる』という傾向が報告されているんだ[5, 6]。」
A先生「B型には有利、と。A型とB型でも違いがあるんですね。」
ほむほむ先生「もちろん、その年の流行状況やウイルスのタイプによって、その差が小さくなることもあるから、『B型なら絶対ゾフルーザ』とまでは言えないけど、一つの判断材料にはなるね。」
副作用と「家族にうつさない」メリット
A先生「効き目のイメージは分かりました。あと、タミフルで心配されるのが副作用ですよね。特に吐き気とか…。ゾフルーザはどうなんでしょう?」
ほむほむ先生「良い視点だね。薬を選ぶ上では、効果と同じくらい安全性も重要だからね。副作用、とくに吐き気・嘔吐といった消化器症状については、いくつかのメタ解析や臨床研究で、ゾフルーザの方がタミフルよりも少ない傾向があると報告されているんだ[7]。」
A先生「それも大きなメリットですね!高熱でぐったりしてる時に、さらに薬で吐いちゃったら辛いですもんね…。飲ませやすさの点でも、やっぱりゾフルーザに分がありそうですね。」
ほむほむ先生「そうだね。そして、A先生がさっき『救世主だ』と言った理由、もう一つ大きなメリットがある。それは『家庭内での二次感染』、つまり家族にうつるリスクへの影響だ。」
A先生「あ!それ、すごく聞かれます!『下の子がまだ赤ちゃんなので、うつしたくないんです』とか、『受験生の兄がいるんです』とか…。」
ほむほむ先生「だよね。ゾフルーザは、体から外に出ていくウイルス量(ウイルス排出量)を、タミフルよりも素早く減らすことが示されているんだ。そして、日本で行われた『BLOCKSTONE試験』という研究[8]の、その後の解析(事後解析)が興味深いんだ。この研究では、インフルエンザにかかった最初の患者さんがゾフルーザで治療された家族と、タミフルで治療された家族とで、その後に家庭内でインフルエンザにかかる人の割合を比べたんだ。」
A先生「(ゴクリ…)結果はどうだったんですか?」
ほむほむ先生「ゾフルーザを使った家族では、タミフルを使った家族と比べて、家庭内で新たにインフルエンザにかかる人の割合が、約4割も少なかった(相対減少率 約42%)と報告されているんだ[8]。」
A先生「よ、4割ですか!?それは大きいですね!だったら、やっぱりゾフルーザ一択じゃないですか!特に赤ちゃんがいるご家庭とか!」
ほむほむ先生「うん、A先生がそう興奮するのも無理はないよ。この『1回でOK』『吐き気が少ないかも』『家族にうつしにくいかも』という3つのメリットは、本当に魅力的だ。…でもね、A先生。僕たち小児科医が所属する『日本小児科学会』は、実はこのゾフルーザに対して、A先生の熱量とは裏腹に、かなり慎重な姿勢も同時に示しているんだ[2]。」
A先生「え………?どういうことですか?こんなに良い薬なのに、どうして学会が『慎重に』なんて言うんですか?」
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