オーガニック食品はアレルギーに効く?効かない?海外の大規模研究や定義など多面的に解説

「オーガニック食品=健康的=アレルギー予防になる」というイメージを持つ人は少なくないでしょう。では、SNSで話題になった「オーガニック給食」には科学的根拠は本当にあるのでしょうか?そこで今回は、複数の大規模研究をもとに、オーガニック食品と食物アレルギーの複雑な関係を解説します。
堀向健太 2025.10.28
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こんにちは。また少し間が空いてしまいましたが、10月3本目の記事をお届けします。10月はかなり忙しく、睡眠不足が続きつつも、新しい記事をお届けできてほっとしています。というのも、ちょっと気になるXの投稿を見たからなのですが…いわゆる「オーガニック給食」問題です。

***

(小児科の医局。研修医のA先生が、自分のスマホを片手に考え込んでいる。)

A先生「うーん……ほむほむ先生、ちょっとこれ、見ましたか?」

(A先生がスマホの画面をほむほむ先生に向ける。そこには、X(旧Twitter)で話題になっている、ある議員の「オーガニック給食の推奨」に関する投稿と、それに対する賛否両論のコメントが溢れていた[1]。)

ほむほむ先生「ああ、見ましたよ。反響が大きかったね。特に小さなお子さんを持つ親御さんたちの関心が高いトピックだということが、改めてよく感じたよ。」

A先生「そうなんです。外来で保護者の方とお話ししていると、『アレルギーが心配で、食事はできるだけオーガニックにしています』という声を聞くことがあります。オーガニック市場も伸びていますし…。」

ほむほむ先生「そうだね。実際に、日本でも食物アレルギーのお子さんは増えていますからね。例えば、2024年に発表された日本の大規模な保険データを解析した研究では、6歳未満の食物アレルギー有病率がこの10年で1.7倍に増えたと報告されているんだ[2]。これは衝撃的だよね。」

A先生「1.7倍ですか…!実感とも一致しますね。特に最近、クルミやカシューナッツといった木の実のアレルギーが増えている印象があったんですが…」

ほむほむ先生「その通りだね。消費者庁の2024年の報告でも、木の実類によるアレルギーの増加傾向が続いていて、特に『くるみ』は原因食物の第2位にまで上がってきているんだ[3]。世界的に見ても、イギリス[4]や香港[5]など、多くの国や地域で食物アレルギーの増加が報告されているんだよね[6]。」

A先生「これだけアレルギーが増えている状況だと、保護者の方々が『何かできることはないか』と情報を探すのは当然ですよね。だからこそ、『オーガニック給食』のような話題にも、『オーガニックなら、もしかしたらアレルギー予防になるんじゃないか』という期待感が集まるんだと思います。」

ほむほむ先生「うん。その気持ちは分かるよ。僕らも、予防のために何か確実なことが言えれば思っているもんなあ。」

A先生「だからこそ悩むんです。その期待と科学的な現実との間に、もしギャップがあるなら、そこをどう説明すればいいのか…。『オーガニック給食、どう思いますか?』って外来で聞かれた時に、自信を持ってお答えできないといけないな、と。今日は、その『広く信じられているイメージ』と『科学的な根拠』について、先生に教えていただきたいです。」

ほむほむ先生「そうだね。では今日はその問題について、今分かっているエビデンスに基づいて、一緒に冷静に整理していこうか。」

本記事を最後まで読めば、

 ・そもそも「オーガニック」の定義って?
・海外の大きな研究結果で分かったこと
・アレルギー予防のために本当に大切なこと

これらの疑問にお答えできるよう執筆しました。

「食物アレルギー」と「オーガニック」の定義

ChatGPTで作画

ChatGPTで作画

A先生「では先生、まず、基本から確認させてください。改めて『食物アレルギー』とは、どういう状態を指すのでしょうか?」

ほむほむ先生「食物アレルギーというのは、特定の食品に含まれるタンパク質(これを『アレルゲン』と呼びます)に対して、『あ、これは異物だ!攻撃しなきゃ!』と体の免疫システムが勘違いして、過剰に攻撃してしまう反応のことだね。」

A先生「免疫が頑張りすぎちゃう、みたいなことですよね。多くの場合、『IgE(アイジーイー)』という抗体が関わる『即時型反応』ですよね。」

ほむほむ先生「その通り。原因食品を食べてから数分~2時間以内に、ヒスタミンなどの化学物質が体内で放出され、さまざまな症状を引き起こすんだ。そして、怖いのが『アナフィラキシー』で、命に関わることもある危険な状態だ。よく混同されるんだけど、例えば牛乳を飲んでお腹がゴロゴロする『乳糖不耐症』。これは免疫が関係していないから、アレルギーとは区別される[7]。」

A先生免疫が関係しているかどうかが、アレルギーか否かの分かれ道なんですね。先ほど世界的に増えているというお話がありましたが、原因になる食べ物も、年齢によって違いますよね。」

ほむほむ先生「その通り。乳幼児期は鶏卵、牛乳、小麦が多いのだけど、これらは成長と共に食べられるようになること(これを『耐性獲得』と言います)も多いんだ[7]。学童期以降になると、甲殻類、果物、そば、そして先ほど話に出たピーナッツや木の実などが目立ってくるね。」

A先生「確かに。成長とともに食べられるようになる子も多いですもんね。では、もう一方の『オーガニック食品』についても教えてください。有機食品のマークを見かけたりしますけど…」

ほむほむ先生有機JASマークだね。あれは、農林水産省が定めた『有機JAS規格』という基準を満たした農産物や加工食品につけられる認証マークなんだ。基本的な考え方は、化学的に合成された肥料や農薬の使用を極力避け、遺伝子組換え技術は使わずに、環境への負荷をできるだけ減らした方法で作られたもの、という考え方に基づいている。」

A先生「『極力避ける』ですか…。ということは、『農薬ゼロ』とはイコールじゃない、っていうことですか?」

ほむほむ先生「お、良いところに気づいたね。そこが大事なポイントだ。有機JAS規格では、化学合成農薬や化学肥料は原則使わない。これは、種まきや植え付けの2年以上前から、そうしたものが使われていない畑で栽培する必要があるんだ。ただし、天然由来で『使用が認められた農薬』は使うことができる。」

A先生「え、そうなんですか!てっきりオーガニックは完全無農薬だと思い込んでいました…。となると、アレルギー予防を期待する方の中には、『農薬が免疫に悪影響を与えるのを避けたい』というお考えもあると思うんですが、その前提が少し変わってきますね。」

ほむほむ先生「そういうイメージが強いよね。だから『オーガニック=農薬不使用』とは必ずしも限らないんだ。実際に、2012年にスタンフォード大学が行った有名なシステマティックレビュー(複数の研究をまとめた分析)でも、有機農産物は慣行栽培のものに比べて、検出可能な残留農薬のリスクが約30%低いことは示されていたけど、ゼロではないっていえるんだ[10]。」

A先生「30%も低いのは事実なんですね。でも、ゼロじゃない、と。…では、栄養価についてはどうでしょう?『オーガニック野菜は栄養たっぷり』みたいなイメージもありますけど。」

ほむほむ先生「あ、それもよく聞くね。先ほどのスタンフォード大学の研究では、ビタミンなどの栄養価に一貫した大きな差は見られない、というのが結論だったんだ[10]。もう少し最近の、2024年に出たレビュー[11]でも、全体として『一律な優位性はない』としつつ、ビタミンCなど特定の栄養素や作物によっては有機の方がわずかに多い、といった報告はあるけど…。そのわずかな差が、健康上の明確なメリットをもたらすとは考えにくい、とされているんだ。」

A先生「なるほど…。『農薬が少ない』のは事実だけど、『栄養価が劇的に高い』わけではない、と。でも、これだけ世界的に市場が拡大している背景には、やはり『健康に良い』というイメージが強くあるんでしょうね。」

ほむほむ先生「そうなんだろうね。国連食糧農業機関(FAO)の報告でも市場規模が大きくなっていることが示されているし[12]、EUなどでは政策的な後押しもある[13]。そもそも、環境負荷を減らしたいという明確な価値観で選ぶ方も多いよね。ただ、こと『アレルギー予防』に関しては、そのイメージと科学的根拠を分けて考える必要がある。」

A先生「だいぶ整理できました。では、いよいよ本題ですが…『オーガニック食品でアレルギー予防できるか?』、白黒ハッキリさせることって、そもそもできるんでしょうか?」  

***

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