アレルギーは「腸の乳酸菌やビフィズス菌」で決まるってホント?プロバイオティクスの本当の話

「アトピーのある子どもはヨーグルトは毎日食べるべき?」そんな疑問を尋ねられることがあります。増え続ける子どものアレルギー。その対策として注目されるプロバイオティクスは、本当にアレルギー予防の切り札になるのでしょうか。この記事では、最新の研究結果を深堀りしていき、科学的根拠に基づいた「今日からできる本当のアレルギー予防策」を探ります。
堀向健太 2025.08.24
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久しぶりに前記事から1週間ほど公開間隔が空きました。本業や研究、医学専門誌用の記事を書くのに忙しかったこと、そして、ニュースレターでは「web記事で読めないような価値」を提供しようと悪戦苦闘しているからでした。今回も、出典を求めて深堀りしつつ、わかりやすい記事を目指しました。

***

大学病院の小児科医局。研修医のA先生は、指導医のほむほむ先生が外来診療を終えて戻ってくるのを待っていました。

A先生「今日も食物アレルギーの赤ちゃんが3人、アトピーの子が5人いらっしゃったんだ…」

A先生がそうつぶやいた時、ちょうどほむほむ先生が医局に入ってきました。

ほむほむ先生「A先生、お疲れさま。何か悩んでいるような顔をしているね?」

A先生「あ、ほむほむ先生!実は、ずっと気になっていることがあって…。先生、最近アレルギーを持つお子さんが本当に多いと感じませんか?」

ほむほむ先生「A先生、とても大切な視点だね。その鍵は、僕たちの体の中、特に『腸』にあるかもしれないっている研究結果があるんだ。A先生は『プロバイオティクス』という言葉を聞いたことはある?」

A先生「はい、よく耳にします!でも正直、本当に効果があるのか、どう使えばいいのか、まだよく分かっていなくて…。あ、そういえば先日の外勤先で、お母さんから『ヨーグルトは毎日食べさせるべきですか?』って聞かれたんです」

ほむほむ先生「ヨーグルトか…実はそれ、とても興味深い質問なんだよ。じゃあ今日は、その真実に一緒に迫ってみようか。」

本記事を最後まで読めば、

・プロバイオティクスの本当の効果と限界が分かる
 ・なぜ効く人と効かない人がいるのか理解できる
 ・今日から始められる確実な予防策が見つかる

これらの疑問にお答えできるよう執筆しました。

なぜ、アレルギーが増えているの?

ChatGPTで作画

ChatGPTで作画

A先生「先生、さっそくなんですが、そもそもなぜこんなにアレルギーの子が増えているんでしょう?」

ほむほむ先生「A先生の実感は正しいよ。日本人の2人に1人が何らかのアレルギーを持っているとまで言われているくらいだからね[1]。子どものアトピー性皮膚炎に至っては、10人に1人か、それ以上とも報告されているね[2]。」

A先生「2人に1人…!これだけ多いということは、個人の問題じゃないですよね」

ほむほむ先生「その通り。この背景には『衛生仮説』という有名な考え方があってね。ただ、これはよく誤解されるんだけど、『不潔な環境が良い』という単純な話じゃないんだ」

A先生「え、違うんですか?てっきり、きれいにしすぎたからアレルギーが増えたのかと…」

ほむほむ先生「その誤解、本当に多いんだよね。正確には、危険な病原菌への曝露が減ったことが問題なんじゃなくて、土の中や動物、私たちの腸内にもいるような『多様な常在菌』との接触が減ったことが問題なんだ[3]。大昔から人間と共存してきた、いわば『古い友人』のような微生物たちとの付き合いが減ってしまったということさ。大事なのは、手洗いや掃除といった基本的な衛生習慣は必要ということ。感染症を防ぐための清潔と、過剰な除菌・殺菌は違うんだ。目指すべきは、危険な病原菌は避けつつ、公園で土遊びをしたり、多様な微生物と適度に接触することなんだよ」

A先生「なるほど、バランスが大切なんですね。掃除をサボっていい、という話じゃないんだ」

ほむほむ先生「その通り!むしろ掃除をしないと、アレルギーの原因となるダニやカビが増えてしまう[4]。衛生仮説を『不潔でいい』と誤解して、手洗いをしなかったり、ワクチンを避けたりする人もいるけど、それは全く違う話で、むしろ危険だからね。」

A先生「微生物との付き合い…なんだか壮大な話ですね。でも確かに、子どもの頃は、もっと外で泥遊びとかしていた気がします」

ほむほむ先生「そうだね。でも、考えてみて。抗生物質の多用、食物繊維が少ない食事…現代的な生活習慣が、僕たちの体と微生物のバランスを少しずつ変えてしまっているんだ。実は、2024年に発表された研究では、生後1年以内に抗生物質を使った子どもは、5歳時のアトピー性皮膚炎のリスクが明らかに高くなることが示されたんだよ[5]。」

A先生「え、抗生物質が?でも、感染症の治療には必要じゃないですか」

ほむほむ先生「もちろん必要な時は使うべきだよ。でも、その研究では、抗生物質の使用回数が多いほど、リスクが段階的に上がることも分かったんだ[5]。1回の使用でリスクはおよそ1.2倍、複数回だとさらに高くなるという報告もある」

A先生「段階的に…ということは、もちろん必要な場合はしっかり使うべきだけど、その使用に関しては、十分に配慮するべきってことですね。」

ほむほむ先生「その通り。しかも、腸内細菌の1歳時点での『成熟の遅れ』が、将来の皮膚症状を予告する可能性があるという報告もある[6]」

A先生「皮膚の病気を、腸が予告する…不思議な話ですね」

ほむほむ先生「これが『腸-皮膚連関』という考え方さ。実は僕も最初は半信半疑だったんだけどね。お母さんのお腹の中にいる時から2歳くらいまでの『最初の1000日』。この時期は、その子の腸内環境の土台が作られ、生涯の免疫機能が決まる、ものすごく重要な『機会の窓』と考えられているんだ[7]。」

この記事は、公開時は無料で全文閲覧可能としていましたが、予定通り8月26日18時にサポートメンバー限定に移行しました。同時に、コメント欄も開放いたします。

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