毒キノコじゃなくても危険!?市販キノコによる中毒?
ある救急外来に嘔吐があるお子さんが受診されました。
その救急室で、保護者さんが言われるには、
「先生、スーパーで買ったエノキを食べた後におなかが痛いって言うんです」
ということでした。
市販のキノコでも体調不良になることがあるとお話すると、「市販のキノコでも体調が悪くなることがあるんですか?」と、驚かれました。
キノコは、古くから食用としてだけでなく、薬用としても利用されてきた歴史があります。そして近年、様々な種類のキノコに含まれる物質と健康に良い効果があるとして、研究が盛んに行われており、実際に多くの有益な効果が報告されています。
しかし、夏から秋にかけては野生のキノコ採取に関する中毒が話題になることも多いです。
そして、実は、市販のキノコでも、皮膚の症状があったり、嘔気、腹痛などの症状が起こることもあるのです。
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「毒キノコ」と聞くと?
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夏から秋にかけて、山で採ったキノコを食べて中毒になるニュースを耳にすることがあります。毒キノコ中毒は、世界中で毎年のように死亡例が報告されています。
中国では2010年から2020年の間に38,000件以上の病気と788人の死亡が報告されていますし、米国では1999年から2016年の間に133,700件の症例が記録されており、そのほとんどが6歳未満の子どもとされています[1][2]。
日本でも特定の地域では中毒発生率が高い傾向が指摘されています。
たとえば、北海道や長野、新潟、岩手、福島などでは毒キノコによる中毒報告が多く、特に東北地方北部から北関東にかけて注意が必要とされています[3]。
こうした毒キノコの中には、タマゴテングタケやドクツルタケなど少量でも命にかかわる種類があり、加熱しても毒性が失われないケースもあります[4]。
専門家ですら見分けが難しい種類があるため、野生キノコは自分で採取して食べることは避けなければいけません。
しかし、「毒々しい見た目のキノコ」や「野生のキノコ」だけが問題とは限りません。実は、普段スーパーで買えるようなキノコでも、生のまま食べたり、加熱が不十分だったりすると中毒症状が起こることがあるのです[5]。
スーパーのキノコでも中毒症状?
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シイタケ、エノキタケ、ナメコ、マッシュルームといった日常的に食卓にのぼるキノコでも、食べ方によっては消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢、腹痛)や皮膚炎、アレルギー様症状が生じることがあります[5]。
こうした症状は、毒キノコのような強烈な毒成分ではなく、キノコに含まれる特定の成分や生食・加熱不足による刺激成分が関与していると考えられています。また、生産地や流通過程における微生物汚染、食べる人の体質や年齢などによってもリスクが異なります。
シイタケ皮膚炎ってなに?
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とくに有名な例が「シイタケ皮膚炎」です。
これは生または加熱が不十分なシイタケを食べた後、数時間から数日後に、かゆみを伴う赤い発疹がむち打ち跡のような線状に広がる皮膚症状です[6]。
原因はシイタケに含まれる多糖体成分「レンチナン」とされ、十分に加熱することで毒性が失われると考えられています[7]。
多くの症例報告で、生シイタケの摂取がシイタケ皮膚炎の引き金となっていることが示されています。 特に、多量の摂取がリスクを高める可能性が示唆されています。
そして、生ほどではありませんが、加熱が不十分な場合にも発症リスクがあります。 例として、軽く蒸しただけのもの、炒め物、スープ、ピザ などが挙げられています。
シイタケ皮膚炎は命にかかわるものではありませんが、強いかゆみや不快な皮疹が出て、3日から1週間ほど続くことがあります。アレルギー体質の人や、過去に経験がある人は特に注意が必要です。
エノキタケ・ナメコの生食リスク
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生食や加熱不足でのリスクは、シイタケだけではありません。
エノキタケやナメコも生や半生状態で食べると、胃腸の弱い人や子ども、高齢者などに下痢や腹痛などの不調を引き起こす可能性があります[8]。
また、マッシュルームは海外で生サラダに使われることもあり、基本的には生食可能ですが、人によってはアレルギー反応やかゆみ、胃腸症状を感じることが報告されています[11]。ほとんどの場合、加熱すれば安全に食べられますが、「普段から生で食べても平気だったから大丈夫」という油断は禁物です。
中毒を防ぐためにできること
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こうしたキノコによる中毒を避けるためには、以下の点に注意しましょう。
1. 生食を避ける
キノコは基本的に加熱調理を前提とした食材です。加熱によって毒性や刺激性が失われる場合があります。シイタケ皮膚炎はその典型的な例です。
2. 十分な加熱
表面だけでなく、内部まで十分に火を通すことで、体に有害な成分を減らすことができます。炒める、煮る、焼くなどの調理をしましょう。
3. 体調・体質に合わせる
胃腸が弱い人や小さな子どもや高齢者は、食べる分量や状態に気をつけてましょう。
4. 未知のキノコは口にしない
野生のキノコを自己判断で採取することは避け、専門家による鑑定を受けることが大切です。
5. 異変があれば中止・受診
食べた後にかゆみ、発疹、腹痛、吐き気などの症状が出たら、すぐに食べるのをやめ、必要に応じて医療機関を受診しましょう。
安心してキノコを楽しむために
「毒キノコだけが危険」という先入観はひとまずおいておいて、スーパーで買えるキノコにも「生食や加熱不足で中毒の可能性がある」ことを覚えておくことが大切です。
特に子どもや高齢者は注意が必要ですが、適切な加熱調理と少しの注意で、キノコはおいしくて栄養豊富な食材として楽しめます。
キノコそのものを怖がる必要はありませんが、「もしものとき」に備えた正しい知識は、日々の食生活で大いに役立つはずです。
記事全体のまとめ
✅️ 見慣れたキノコでも、生や加熱不足で食べると消化器症状や皮膚炎などが起こる可能性があります。
✅️ シイタケ皮膚炎や生エノキタケによる腹痛の例が示すように、市販のキノコでも注意が必要です。
✅️ 野生キノコはもちろん、日常的なキノコでも「生食を避ける」「しっかり加熱する」といった基本ルールを守り、安心して楽しみましょう。
【文献】
[1]Li W, Pires SM, Liu Z, Liang J, Wang Y, Chen W, et al. Mushroom Poisoning Outbreaks — China, 2010–2020. China CDC Weekly 2021; 3:518 - 22.
[2] Brandenburg WE, Ward KJ. Mushroom poisoning epidemiology in the United States. Mycologia 2018; 110:637 - 41.
[3] Ishihara Y, Yamaura Y. [Descriptive epidemiology of mushroom poisoning in Japan]. Nihon Eiseigaku Zasshi 1992; 46:1071-8.
[4]Yin X, Yang A, Gao J-M. Mushroom Toxins: Chemistry and Toxicology. Journal of agricultural and food chemistry 2019; 67 18:5053-71.
[5]Wennig R, Eyer F, Schaper A, Zilker T, Andresen‑Streichert H. Mushroom Poisoning. Deutsches Arzteblatt international 2020; 117 42:701-8.
[6]Ricar J, Pizinger K, Cetkovská P. Shiitake dermatitis: a distinctive clinical entity. International Journal of Dermatology 2013; 52.
[7]Boels D, Greillet C, Langrand J, Labadie M, Le Roux G, de Haro L, et al. Shiitake dermatitis: experience of the Poison Control Centre Network in France from 2014 to 2019. Clinical Toxicology 2022; 60:954 - 9.
[8]Breene WM. Nutritional and Medicinal Value of Specialty Mushrooms. Journal of food protection 1990; 53 10:883-94.
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